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おついたち(如月)


「 本 蕨 」



はる
 陽光を浴びて、草が勢いよく伸び始めようとしている姿の象形文字です。今、大地や川、湖の水は温み、草だけでなく、それまで堅く蕾んでいた木々の冬芽も、一日一日強くなってゆく日の光からたくさんの恵みを受け取ってほどける準備を始めようとしています。
 春先に、野山に山菜(蕨)を採りに行くことは贅沢な楽しみ。この蕨、夏のお菓子と思いきや、実は本蕨の場合、秋から春先までが旬なのです。前年の秋に蕨を採り、これを砕いて澱粉を摂取しなければならず、山村の仕事の中でも大変な重労働なのです。
 どのように製造されるかというと、わらびの根をすりつぶしたものに水を加え撹拌し、ある程度澱粉が沈殿したらうわずみを捨て、また水を加え撹拌し・・・ということを何度か繰り返します。きれいになったら沈殿物(澱粉)を乾燥させ、これがわらび粉となります。色は薄い灰色で、それで作ったわらび餅も若干茶色がかったものになります。
 わらび粉の原料となるわらびはウラボシ科の多年生シダ植物で、草原や山地の日当たりの良い乾燥地に群落を作って自生します。春先に山菜としては良く食べられますが、その根から取れる澱粉であるわらび粉はあまり作られていません。製造に手間がかかる上、澱粉収量も12〜15%と少ないため、現在では製造者が少なくなっているからです。
 現在一般的に販売されているわらび餅は無色透明で、色がついていないものが多くを占めています。これは、価格面や製造されている量の少なさから、わらび粉を葛澱粉や甘藷澱粉、タピオカ澱粉などで代用しているものが多いからです。元和二年(1616年)に書かれた『丙辰紀行』(林道春著)には、『このところの民、わらび餅を売る。往還の者飢を救う上故、いにしえより新坂のわらび餅とてその名のあるものなり。或いは葛の粉をまじえて蒸餅とし、豆の粉に塩をかけて旅人にすゝむ。人その蕨餅なりと知りてその葛餅ということを知らず。・・・』(※新坂とは今の掛川市あたりのこと。)とあるので、江戸時代初期にはすでに葛粉で代用していたことがわかります。

 ということで、通常菓子として売られている夏や春のわらび餅は、原材料代が20倍もすることから商売として扱うには難しく、葛や甘藷・タピオカなどの澱粉で代用しているものが多く、本物のわらび餅を頂く事は高価すぎるため殆ど不可能で、1コ800円位で特別に甘味処で作らせて食するしかなく、本蕨餅をいただくことは無理と言えるでしょう。
 その入手困難な本蕨を、京都の特別な農家の入手ルートにより、本年2月のおついたちのはじまりを祝って、たった2コでございますが特別におついたちのお客様におつくりしてみました。どうぞ、熱いお茶でじっくりと本蕨をお味わい下さいませ。
元気で生きる  主人 田口 恵美子